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働き方コラム

「食」の仕事にこだわり、46歳で念願の正社員に【小林まどかさん(仮名)】


取材・文/働きかた研究所 平田未緒

 

 

※出典:働くママ&パパに役立つノウハウ情報サイト「日経DUAL」(2014年11月 平田未緒執筆記事を、同サイトのご厚意のもと、転載しています)

 

一度専業主婦になってから、再び働き始めた人達の歩みを追っています。
今回、紹介するのは46歳のときに、21年ぶりに正社員として働き始めたという女性です。
彼女が歩んだ道のりとは。

 

「夢がかなった・・・!」100倍の難関を突破して、悲願の正社員に

小林まどかさん(仮名)は、今の仕事を、心から大切に思っている。
職場は私立の保育園。仕事は、通ってくる園児や保育士をはじめとする職員の給食を作ること。
園児達の食育や、クッキング実習に携わることもある。
2013年4月、開園スタッフの正社員として、約100倍の難関を突破して採用された。
46歳のときだった。

 

 

「合格の知らせをいただいたときは、信じられない思いでした。
まさか、この年で正社員での再就職がかなうなんて、夢にも思っていなかったんです。
それもずーっとこだわってきた、『食』関係の仕事です。夢がかなったんです」
正社員として働くのは、実に21年ぶりだった。

 

 

短大卒業後、正社員で新卒入社した大手クレジット会社を、25歳で辞めて以来のことである。
以後、出産前に1年半、10年間の専業主婦生活を経て
再び勤め始めた職場でも、ずっとパートで働いてきた。
「正社員になって変わったのは、仕事と家庭を両立させるにあたっての基本的な考え方です。
パートのときは、できるだけ家族に迷惑をかけないように、
常に時間をやりくりしているような感じでした。

 

 

でも、正社員はそれでは無理だと早々に気づきました。
家族の積極的な協力なくしては正社員では働けない、という考えになったんです」
それくらい生活はガラリと変化した。
勤務時間が長く、残業もあり、会議やミーティングで遅くなることもある。
でも、やりがいは本当に大きい。
「採用されて、よかった」。そう、心から思っている。

 

 

10年ぶりの社会復帰。「洋菓子店」でのパートに、予想外のやりがい

今では「食」に関する強いこだわりを見せる小林さんの出産前の勤務先は、
クレジット会社とコールセンター。
食には無関係な職歴だが、その後10年間、専業主婦として夫と2人の子ども、
そして同居する義父母の食事を日々作るなかで、
食への興味と関心が次第に強くなっていったという。

 

 

「なので、10年ぶりの再就職でも、パート先にはこだわりました。
子どもの教育費が今後かさむことも考えての再就職でしたが、
食に関すること、自分が興味のある仕事に絞って探したのです。
そうして見つけたのが、個人経営の洋菓子の店でした」
洋菓子店での具体的な仕事は、店頭での接客やケーキ作りの下準備など。

 

 

最初は不安でいっぱいだったが、一方で日々の仕事は「ものすごく好き」だった。
「夢中で取り組むうちに、最初の不安はいつしかすっかり消えていました。
お店は、シェフで店主の社長とその奥さんが経営していて、
従業員はパートの私だけでした。

 

 

それもあってどんどん仕事を任せてくれたんです」
例えばシュークリームの皮づくり。売れ行きは日々違い、
そのスピードと焼き上がりに必要な時間から、
「作り過ぎにならず、品切れしない」タイミングでオーブンに入れ、焼き始める必要がある。

 

 

こんな繊細な、難しい「読み」の必要な時間管理も、小林さんは任された。
「時間を見誤って欠品させたり、多く余らせてもいけません。
そんな売上に直結する管理をすることに、プレッシャーもありました。
一方で、クリスマスなど季節に合わせたお店の飾りつけやディスプレイ、
ラッピングのデザインや、箱や包装紙、材料なども、
私に決めさせてもらえるようになったんです。
すごく楽しく、やりがいもありました」

 

新人パートの告げ口で、理不尽な退職に追い込まれる

小林さんは「ずっとここで働きたい」と思っていた。
「お給料はそこそこでも、私生活に役立つ何かを覚えられる仕事がいい」と思っており、
ディスプレイまでやらせてくれるパート先の洋菓子店は、
うってつけの職場だったのだ。
ところがである。

 

 

パートは小林さん一人だったその洋菓子店に、
ある日、新人パートが入社してきた。
パート勤務ではあるが、製菓学校を出た女性で、
将来は独立という明確な意識を持った人である。
「彼女が入ってきて、お店の雰囲気が一気に悪くなりました。
個人経営の洋菓子店なのに、社長にずけずけと意見するからです。

 

 

いつしか、社長と彼女は対立するような格好になりましたが、
私と彼女は同じパート。小さな職場で彼女を無視することもできません。
仕方なく彼女の話を、聞くだけは聞いていました」
その後、新人パートは辞めていった。
ところが社長は小林さんにまで退職を迫ったのだ。

 

 

「理由がわからず、どうしてかとたずねたら、その新人パートが辞める際、
『小林さんも社長の悪口を言っている』と告げ口をしたそうなんです。
それを社長は、真に受けたようでした。

これはショックでしたね。1年半、お店のために一所懸命がんばってきた私より、
新人の言うことを信じるのか、って思って」
自分は何もしていない。なのに…という思いが募り、落ち込んだ。

 

「食」に関する仕事内容にこだわって、パートで再就職先を探す

「とはいえ、子どもの教育費のこともあり、いつまでも何もしないではいられません。
したがって仕事は一刻も早く見つけたかったのですが、
一方で『再就職先は飲食、できればケーキかパン関係で接客を伴う仕事』と決めていました」
あくまで「仕事内容」にこだわって、新聞折り込みの求人広告を隅々まで読み、
「求人」の張り紙を探して、町を歩いた。

 

 

そんななかで見つけたのが、
こだわりの手作りパン屋さんの「販売スタッフ募集」の張り紙だ。
「あ!って思いました。そのまま吸い込まれるように、店に入っていったんです。
お店の方に『あの張り紙を見たのですが』と声をかけ、
その場で仕事の話を聞いて、迷わず応募しました」
願っていたとおりの職場。ところが、入社してからが大変だった。

 

 

以前働いていた洋菓子店に比べて商品アイテムが桁違いに多いのだ。
パンは、シーズン商品なども含めると、常時100種類近く並んでいる。
しかも「こだわりの店」だけに、お客の質問も多様だった。
「パンの名前と材料と価格とを、すべて覚えるのは当然です。

 

でも、それだけでは足りません。こだわりの店だけに、お客さまは、
アレルギー対応の商品や製法などまで、あらゆることを聞いてきます。
これは到底覚えられないと思って、焦りました」

 

大変さを喜びに。出勤日の気持ちは「さあ、行くぞ!」

焦るより、覚えるための地道な努力。
こう思った小林さんは勤務中、商品一覧表をポケットにしのばせて、
実際の商品と照らし合わせて暗記した。

 

 

帰宅後はその表をもとに、
子どもにクイズ形式で質問してもらって、一つひとつ確認した。
「商品知識が頭に入り、商品に愛着がわくほど、接客はますます楽しくなりました。
住宅街ですので、顔なじみのお客さまも多く、
そのお客さまがまた、仕事の楽しみを大きくしてくださる感じでした」
例えば、毎回、同じ曜日に同じものを買われるお客には、その商品を取り置いておく。
おいしい食べ方を研究し、提案もする。

 

 

取り置きのお客さまの喜ぶ笑顔や、提案したお客さまが後日
「本当においしかったわ」など報告してくれることも多く、二重三重の喜びを味わえた。
週に4日ある出勤日の起床時刻は、朝5時45分である。

 

その後夫、2人の子ども、義父母と自分の6人分の食事を整えて、食べさせる。
自分も朝食をかきこみ、掃除・洗濯を済ませると、あっという間に8時を過ぎる。
後片付けをし、自分も身支度を整えて、8時45分には、職場に向かって自転車を走らせる。

 

 

「仕事は立ちっぱなしですが、帰宅後も、食事の後片付けが終わる夜の8時までは座りません。
夕食を食べるとき以外、一度座ってしまうと、立ち上がれなくなってしまうからです」
それでも出勤日は「さあ、行くぞ!」という気がわいてくる。

 

正社員の「安定」「収入」を求めて転職を考える

顧客との会話に加え、入社後1年で、少しずつ計60円時給がアップしたことや、
「疲れてない?」「冷たいものでも飲んで」など社長や社長の家族の気配りの言葉などが、
大きな励みとなっていた。
差し入れや「焼き損じ」のパンを持たせてくれることなども、頑張る気持ちを後押しする。
「仕事にこんな楽しみがあったんだ」。

 

 

小林さんは、こだわりパン屋さんに入社して、本当に良かったと思っていた。
「半面、食の世界にもっともっと入り込みたいという気持ちが、さらに強くなっていきました。
同時に、正社員としての安定感・安心感を得たいとも思うようになっていました。
というのは、実は夫が、それまで勤めていた大手商社を辞めると言い出して。

 

 

『どうしてもこの仕事がしたい』と言って、トラックのドライバーに転職をしてしまったんです。
私は夫のその気持ちを大事にしたいと思いましたが、とはいえ当時、まだ子どもは小学生です。
なのに収入は激減し、不安定になりました。

 

 

その分、私もしっかり仕事をしたいと考えるようになっていました」
「食」に関する仕事で、かつ正社員募集に絞って、求人を探した。
しかし、正社員での募集は少なく、ようやく見つけて応募しても「不採用」。

 

 

「46歳という年齢では、もうダメなのかな」と思い始めた矢先に、
『保育園開設 正社員募集 職種・調理師』という、
今の職場の求人広告を見つけて、応募した。
「年齢できっと落とされるという予想に反して、書類選考は通過。
その後筆記試験と面接があり、会場に入ると、まわりは自分より一回り以上若い、
20代と思われる女性ばかりでした。

 

 

一瞬にして、これはダメだって、思いました。何年も着ていなかったスーツを引っ張り出し、
リクルートスタイルをなんとか作っていったのですが、
『結果は見えている』と思ったんです」
ところが、である。届いた封書は「合格通知」。
「やった!」「受かった!」 うれしい思いがほとばしり出た。

 

正社員になって得られたのは「家族の協力」「自信」「安心」

「私は、給食調理は初心者でした。
年齢からしても、私を採用したことは会社にとって、
冒険だったと思います」と小林さん。

 

 

合格の理由は「わからない」。でも「ともかくやる気を伝えたこと」また、
若い人にはない「実際の子育て経験」が買われたのかもしれないと思っている。
念願かなっての「正社員」。でも正社員になり、働き方はまったく変わった。
自分の自由になる時間が格段に少ない分、
家族の協力が不可欠だということに、早々に気が付いた。

 

 

「うちでは、例えば食事の支度は、短時間に出来上がるよう、
皆で手分けするようになりました。休日には夫が、買い物や料理を、
進んで担当してくれます。
さらに娘が、洗濯物を干したり、取り込んでくれたりしています」
家族の協力に加えて「正社員になったからこそ得られた」ものが2つある。
自信と安心だ。

 

 

「自信は、この年でも雇ってもらえたこと、
そして、自分の夢をかなえられたことによるものです。
安心は、無期雇用契約で、ずっと働けることからです。
いずれも、パート時代には感じられなかった、
私にとってとても大きなものでした」

 

 

正社員としての勤務を始めて1年半が経過した今、小林さんはこう思っている。
「子どもたちの記憶に残ることをやっていきたいと思っています。
といっても大げさなことではなく、毎日毎日おいしい給食を作り、喜んで食べてもらうこと。
そして季節や時節にあった食育をして、
その子の人生を少しでも豊かにしてあげられたら、と思うんです。

 

 

例えば、その日のメニューにそって旬の野菜を紹介したり、
調理実習で季節の野菜を使ってトマトケチャップを作ったり、お月見団子を作ったり・・・
いろいろ工夫しながら、食に興味を持たせるようにしています」
自分の役割を果たし、足跡を残せることに、大きな喜びを感じている。

 

 

 

[終わり]

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