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顧客アンケートで「心を通い合わせる」経営手法【長野第一ホテル】第1回

取材・文/働きかた研究所 平田未緒

 

株式会社こづまや(長野第一ホテル)
代表取締役社長
宇都宮恒久さん

 

◆社名 株式会社こづまや(長野第一ホテル)
◆設立 2010年10月1日
◆資本金 10,000千円
◆売上高 144,958千円(2013年度)
◆経常利益 12,000千円(2013年度)
◆従業員数 30名(うちパート22名)
◆事業内容 ビジネスホテル
◆所在地 長野県長野市南千歳1-16-2
◆ホームページ http://www.nagano-daiichi.jp/
※情報は取材時(2015年)のものです

JR長野駅改札口から徒歩5分。
駅舎を出れば徒歩2分。
という便利な場所に、長野第一ホテルは建っている。

 

にもかかわらず数年前、ホテルはひどい経営不振にあえいでいた。
2011年には「これ以上はもう無理」と、
地元信用金庫から融資打ち切りを宣告されるほどの累積赤字。

 

高度経済成長期の1978年、
駅前旅館からの転換が進む流れのなかで建設されたビジネスホテルは、
建物の老朽化が激しく、まさに「閑古鳥が鳴いて」いた。
その長野第一ホテルが今、奇跡の復活を遂げている。

 

客室稼働率は年間平均7割以上。
2014年4月には、パートも含めた全従業員の給与を底上げした。
管理職のそれは、月給10万円以上の増額という破格のもの。
他の社員の月給も相応に上がり、22人いるパートタイマーの時給は、
750円から850円へ、全員一律100円上がった。

 

なぜ、こんなことが可能になるのか。

 

地元信用金庫から相談され、
旧・長野第一ホテルの経営を引き継いだ復活の立役者、
代表取締役会長の宇都宮恒久さんにうかがった。

 

 

老朽・閑古鳥ホテルを黒字化、賃金アップできた理由

実は宇都宮さんは、長野を代表するタクシー会社「中央タクシー」の会長だ。
サービスの良さでも、業績の高さでも、同業他社の追随を許さない。
その経営手腕を知る信用金庫が、長野第一ホテルの引継ぎを打診した。
宇都宮さんは当時を、こう、振り返る。

 

「『融資を打ち切れば、長野第一ホテルは倒産する。なんとかならないか』と言われましてね。
もちろん即断はできません。家族も大反対です。『還暦を過ぎて、なんで火中の栗を拾うのか』と
口をそろえて言われました。当然ですよね」
それでも宇都宮さんは、決断した。

 

地元の、それも駅前一等地の灯を、消してはいけない、という思い一つ。
ところが、結果は、冒頭で紹介したとおりである。
ホテルは、今日の部屋を明日は売れない。

 

賃金アップが可能になるのは、毎日の客室稼働率が高いからだ。
トップ・シーズンはともかく、閑散期も一定の利用がないと、年平均7割以上は、果たせない。

 

要するに、需要の多寡にかかわらず、お客さまから支持されている。なぜか。

 

「そんなに特別なことはしていないですよ」

 

と、宇都宮さん。続けて出たのが、社員に対する称賛だ。
「うちの社員は皆、素晴らしくてね。お客さまから、社員に対するお褒めの言葉を、
たくさんたくさんいただきます。なかでも一番分かりやすいのは、
業者としてホテル内に出入りする、当社タクシー乗務員の反応かな。
すごく対応がよくなった、って皆、口をそろえるね」

 

長野第一ホテルの外観

 

 

清潔感とサービスで、有名ホテルを超える顧客評価

実際、ホテル・旅館の予約サイト「楽天トラベル」のお客さま評価を見てみると、
2015年2月10日現在、総合点で4.13。
部屋の得点が5点満点の3.45であり全体を押し下げるなか、立地4.45はともかく、サービスが4.20と健闘する。

 

 

「かつては、ご予約のお客さまから、こんなお礼を言われたそうですよ。
『長野駅前の他のホテルが満室でも、第一ホテルさんだけは、いつでも空いているからね。
本当に助かるよ。ありがとう』って。笑っちゃうでしょう」と宇都宮さん。
経営を引き継いだ際、内装面の大改装は行った。

 

人が歩く廊下の中央部分だけ毛の禿げていた絨毯を敷き直し、
あちこち破れたりしみだらけだった客室の壁紙を張り替えた。
ベッドの寝具や、リネン類も入れ替えた。

 

それでも、部屋の間取りは変えられない。
ユニットバスは、相変わらず狭いまま。
今どきトイレがウォシュレットでないのは、
「あまりにスペースが狭く、物理的に設置が不可能」だからである。

 

「建て替えも考えました。でも、それには莫大な資金が必要です。
断行すれば、会社は重い負債を背負います。社員には『とにかく売上』を、求めざるを得ないでしょう。
それは、違う。私が志す経営ではないと思いました」

 

建て替えをしない決断をした時点で、
「狭さ」と「古さ」は、長野第一ホテルが永遠に背負わなければならない、宿命となった。
耐震工事行い、内装を新しくしても、「作り」や「間取り」から来る古臭さは消えはしない。
つまり「広さ」や「新しさ」とは別のところで、魅力を出す必要があある。
「それには、清潔感と、アットホームなサービスだと考えました。
だからこの二つに、圧倒的な磨きをかけていこうと思ったんです」

 


長野第一ホテルのシングルルーム

 

中央タクシー流「黒字化成功の鉄則」を実行

とはいえ、元は閑古鳥が鳴いていたホテルである。
ほとんど客の出入りがないフロントは、スタッフの気も緩み、
ひなが一日、ただ時間が経つのを待つ状況。

 

非常階段には荷物が積まれ、ホコリがたまりクモの巣が張って、人が通れないほど汚かった。
要するに従業員は、そんな状態をずっと放置してきたことになる。
にもかかわらず宇都宮さんは、経営引き継ぎの際、パートも正社員も、誰ひとり解雇はしなかった。
では、いったいどうやって、清潔感とアットホームなサービスに、
圧倒的な磨きをかけさせることができたのか。

 

「別に何も・・・敢えていえば部門ごとの飲み会、食事会と、
毎月一回のパートさんも含めた全社員研修でしょうか」
拍子抜けするような答え。「でも、事実なんです」と、
長野第一ホテルの営業部長、渡辺誠さんが言葉を添える。

 

営業部長 渡辺誠さん

 

渡辺さんは、旅館を営む家に生まれ、ホテル業を経て、
飲食店を経営するも行き詰まらせた経験をもつ。
店を手放し、「フラフラしていた」ところ、宇都宮会長に「手伝ってくれないか」と請われて、入社した。

 

実は、宇都宮さんが創業し、
今では長野を代表するタクシー会社と誰もが認める中央タクシーも、
最初から順風満帆だったわけではない。

 

「荒くれ者ぞろいが当たり前」というタクシー業界の常識に抗い、
「心の経営」を徹底することで、圧倒的な黒字体質の会社に育てあげた。
その実績は、乗務員1人当たりの月平均売上高が55万円という数字に表れる。

 

これは、長野市内の主要14社の平均値と比べ実に16万円も高い数字だ。
その、中央タクシーの経営を通じ、体得した鉄則が
「会社をよくするには、人間関係をよくすること」だと、宇都宮さん。
今回も、同じ鉄則を、実行したに過ぎないという。

 

 

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