社員の9割が男性という会社で、
女性社員だけを対象とした社内技術コンテストが開かれ、
見学参加してきました。
その技術は、創業100年の同社が長年とても大切にしてきた技術です。
この巧みさを競う「全社員」対象のコンテストも、長年開催されていました。
しかし、女性が表彰されたことはありません。
体力や体格の差も影響し、「女性には難しい」とされており、
エントリーする女性自体も極めて少なかったのです。
「この状況のままでいいのだろうか」
数年前から女性活躍推進に取り組んできた同社に、
今年になってこんな疑問が湧き上がりました。
すなわち
「本当に女性には無理なのか」
「難しいという先入観が、ますます女性を、
技術習得から遠ざけているのではないか」
いった疑問です。
さらに、
「女性は技術は苦手、で、片づけてしまっていいのか」
という問題意識も生じました。
これに対し、同社が出した答えは、NOでした。
結果、初めての「女性のみ」を対象としたコンテストの
開催が決まったのです。
さらに、女性部門の優勝者には、
伝統ある「全社員」対象のコンテストへの、
出場権が付与されることとなりました。
一方、社内には反対意見もありました。
「ダイバーシティが大事だとされる時代に、なぜ女性だけなのか」
「1000人近い社員の上位4人しか出場できない全社員対象のコンテストに、
女性枠で勝ち抜いた人の出場を認めるのは、男性差別ではないか」
が、その、代表です。
それでも、主催部署は、開催の意思を貫きました。
敢えて「女性の」とすることに意義がある、とされたのです。
女性が表舞台に立つ「場」を会社主導で作ることで、
女性活躍を阻む壁に、また一つ風穴があくのではないか。
そう、考えられたのだと思います。
こうして、まずは北から南まで全国5支社で予選を開催。
当日は、5支社の予選でそれぞれ勝ち残った6名が、審査会場に集まりました。
集合から審査までの3時間、社内報用の写真撮影があったり、
それぞれ最後の練習をしながらも、どこか緊迫した空気が流れます。
運営サポートのためのスタッフが徐々に集まり、
定時ぴったりに審査スタート。
実技は2回。一人15分ずつ、実に3時間かけて行われました。
「緊張した・・」
「終わった・・」
終了後の女性たちは、一様にほっとした表情は見せますが、
結果が出るのはこれからです。
共に談笑しつつ緊張感ももって本社に移動し、
結果発表の会場となる同社の役員室に入りました。
審査員は、全国から集められた6人のベテラン役職者。
まずは、実技を撮影した動画を再生し、選手一人ひとりへの講評です。
もちろん、往年のベテランの目には、
まだまだ「足りないもの」も多く見え、
時に厳しい指摘や、課題克服のための指導もありました。
でも、一様に出てきたのは、
「正直、ここまで上手だとは思わなかった」
「この動画を見たら、男性社員はきっと度肝を抜かすだろう」
だったのです。
「女性には無理」「女性だから下手」などは、
誤った認識であったという理解が、その場の空気を覆いました。
続いて、結果の発表です。
公表は、6人のうち、上位2位。
準優勝は……
「Мさんです。おめでとうございます!」
一斉に視線を浴びるMさん。
その後、プレゼンターから「受賞の一言」を促されましたが、
みるみる顔を赤くしながら彼女が発したのは、
言葉ではなく、嗚咽でした。
「悔しいです」
「女性だけの大会が行われると知り、
今日を目指して、本当に練習してきました。だから・・」
そして、こうも言いました。
「もっと練習して、男女対象のコンテストに勝ち残り、優勝女性とまた競いたい」
さあ、いよいよ優勝者の発表です。
呼ばれたのは、私のすぐ横に座っていたKさんでした。
ところが、名前を呼ばれたKさんの横顔に笑みはありません。
そして、きっと口を真一文字に結び、
鋭い視線をまっすぐ正面に向けたまま、こうコメントしたのです。
「本当に責任重大だと思っている。実は、地区予選でも準優勝の女性を泣かせてきた。
悔し涙を二度も流され、女性のトップに立てたことの重みを、真摯に受け止めている。
「全社員」対象のコンテストでは、男性を負かしていきたい」
もちろん、彼女たちは、トップクラスの技術者です。
中でも優勝者は、10年前に
「全社員」対象のコンテストへの出場経験もあった方でした。
他の女性社員が全員、ここまでの気概をもって
技術習得に取り組んでいるとは言えないでしょう。
また、男性には男性の、女性には女性の特性があり、得意分野があります。
両者が必ずしも同じ土俵で戦う必要はない場合も多いと思います。
それでも、朝イチから夜の懇親会まで、終日見学参加させていただいて、
「開催」したことそのものに価値があったのだ、と、私には感じられました。
朝いちばんの緊張した顔、終了後のほっとした顔。
結果発表時の空気と、上位2位の方の、
「頑張り切った」からこその嗚咽であり、次のステージ向けた真剣な面持ち。
さらに審査員や運営部署など多くの男性も交えた終了後の懇親会には、
女性選手たちの清々しい顔・顔・顔・・・がありました。
清々しさは、頑張ってきたことへの自負、「やり切った」感、
会社に認められたことによる自信、によるものだと思います。
習得した技術そのものの価値さることながら、
こうした自負であり自信こそが、
今後のキャリアをさらに豊かに開くための礎になる。
このことにも、とても大きな価値がある、と思ったのです。
今回、「女性のみ」対象のコンテストを開かれたことで、
大きな一歩を踏み出す女性が現れました。
さらに、社内で重視される技術を身に着けていることが、
女性自身の、キャリアに対する自信につながる可能性も見えました。
「女性だから◯◯」など属性による思い込みを、
いったん捨ててみた先に、見えてくるものがあることを、
この事例は教えてくれたと思います。
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